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2022/10/08

【お題でSSトピ】

【お題でSSトピ】 今回のお題:『夜風』 ・400〜800字程度 ・版権、エロ、グロなど投稿規約に反する内容以外であれば何でもOK 以前にあったお題トピが楽しかったため、勝手に引き継いで立てさせてもらいました。 最近は帰り道に肌寒く感じるようになったなと思って今回のお題を思いつきましたが、季節感はあってもなくても、お好きようにお書きください〜! 参考→https://cremu.jp/topics/28462
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2.ID: PGxlhEuk2022/10/08

すっかり日が短くなり、暗くなるのが早くなった。朝晩の空気の冷たさに、嫌でも季節の移ろいを感じる。 朝からどんよりと薄暗く、ぐっと気温が下がったある日のことだった。夜風が身に染みる、というのはこういうことを言うのだろうと、しみじみ思う。 気温が下がったから、夜風が当たり冷たいから。それはもちろんだが、きっとそれだけじゃない。 『もう、会わない。……ううん、会えない』 足元から崩れそうになるのをなんとか堪える。 予感はしていた。あなたの心は、もうしばらくここにはなかったから。 夏の終わりと共に、緩やかに少しづつ離れていった。それを止められなかったのは、紛れもなく自分の力不足で、致し方ないことだと思う。 それは、否応なしに季節が移ろうのとどこか似ていて。どんなにもがいても、止めようがないものだった。 薄手のコートの上から身体を擦る。冷たい風に、身体が軋む。 ああ、こんなに寒いのは、歩いている隣にあなたがもういないから。 鼻の奥がつん、として弱り果てる。やり過ごそうと深く息を吐き出した。 「 」 夜の闇に溶けて消えた微かな言葉を、あなたは知らないままでいい。 せめてもの抗いで、宙を見上げた。冷たい風は、濡れた頬を慰めることもなく温もりを奪っていく。 ひそやかな切なさを胸の奥にしまい込み、歩みを進める。この夜の冷たさを、せめて忘れずにずっと覚えていようと思った。 ※すぐ書きに行くって言ったのに、すみませんでした!

3.ID: Z4VJTxvw2022/10/08

 ベランダに出ると夜空には満月一つ、散らばる星々無数。月の光が強いのか、青く浮かび上がる一帯は夜行性でない生き物の私の目にも把握が出来る。  風が身体を包んでいった。何色の季節のものか、今はよくわからない。  セミが飛んできた。イテッ! いつの間にか足元にはセミが何匹も落ちている。お亡くなりになったならまだ良かったのだけれど、セミ爆弾! 他所でやって!   オマケの蚊! もーっと他所に行って! くらえぃ! 千手観音拍手!(周囲一帯をやみくもに両手で叩く事。今思いついた。)  ……ゼイゼイ、ああ、なるほど今のは『夏風』って事ね。  今年は時期を過ぎても暑い日が多かったから、質の悪い夏が残りっぱなしだったのかしら。  ヒュルリ。もう一度風が吹いて、セミ爆弾もにっくき蚊も全部吹き飛ばしていったみたい。  私の可憐なか細い手(設定・乙女チックモード)に夕焼けから切り取ったような落ち葉が一つ。  まあモミジ! 素敵な秋の手紙ね!    私が感激していると、手のひらにもひとつ落ち葉。  黄色いハートの形をした大きなイチョウ葉が、モミジを隠す。  ボトボトドサドサ! たくさんの黄色いハートがまるでドカ雪のように頭上から降って来た。 「もー! 加減しなさいよ!」  私が風に向かって文句を叫んだら、おじいさんとも子どもともつかない、不鮮明な年代の声が風に乗って飛んできた。  ──薄幸の美少女気取りなんてお前らしくもない。明日はそれでヤキイモでも焼けばいいさ。  憎たらしい、季節の美しさに浸っているモードの乙女にイモなんて!  ……好きだけどさ。  足元にはいつの間にか、ゴロゴロとサツマイモが転がっている。コレを使えという事らしい。  まったく、病弱なのは本当なのに人使いが荒いったら!  どうせご相伴にあずかりにくるのであろう風の為に、私はせっせと家の中にイモを運ぶのだった。

5.ID: OXlZajp12022/10/08

 マンションの開いたカーテンの外で赤い光がふくらむ。小さく灯っては消え、消えては灯り、満開の都会の夜景に花を添えている。  結城は濡れた髪をそのままにガラス戸を開け、裸足でベランダに出た。むき出しのつま先から、コンクリートの冷ややかな拒絶が一瞬にして全身を駆け巡る。 「さっむ!」  声が闇の向こう側にまで通り抜ける。結城は触れた手すりの冷たさにも驚いて、指先を両脇の下に差し挟んだ。  赤い光が隣から消える。代わりに白い煙が夜空に広がり、唇から煙草を離した櫂がくつりと笑った。 「そんな格好しといて文句言うなよ」 「急に寒くなりすぎなんだよ。まだ冬服持ってきてねえし」 「だからって……ふっ、何やってんだ」  首にかけたタオルが向かいのビルの明かりに波打つ。結城は体をあたためたいのか冷たい地面からできるだけ離れていたいのか、自分でもわからないままに左右の足で交互に飛び跳ねていた。早すぎる冬の気配をはらんだ風が頬を叩く。 「さむい!」 「わかったわかった。片方やるからこっちこいよ」  櫂が片側のサンダルから足を引き抜いた。結城はすかさずまだ体温の残るそこにすべり込んで暖を取り、そのまま傍らの体にぴたりと張り付いた。結城の濡れた髪の毛先が櫂の首筋に絡みつく。 「うおっ」  櫂は慌てて煙草を左手に持ち替え、空いた手で結城の右肩を支えた。互いの宙に浮いた片足がベランダの陰で触れ合う。 「あったけえ」 「俺は寒いよバカ。……灰がついた」  夜の空気のすっかり染み込んだ手が結城の髪をやわらかくかき乱す。指先からこぼれた灰を夜風が浚った。 「もっかい風呂入ろっかなあ」 「一緒に入るか?」 「そっちの方が風邪ひきそう」 「……ふーん?」 「想像すんなよ」 「お前が先にしたんだろ」  結城の鼻先で赤い光が灯る。それは優しく輝きを放ち、やがて静かに闇のなかへと沈んでいった。  肩に回された腕に力がこもった。 「確かに寒いな」

6.ID: DWeSHKJq2022/10/08

 凍てつく程でも無い、寒い風が吹く夜のことだった。誰もが振り返る程でも無い、どこにでも居るタイプのイケメンの俺は漫然と空を見上げた。 「星、めっちゃ綺麗ッスね」  背後に立つ男は俺の言葉には答えず、しかし同じように空を見上げたのだろう。ジリ、とコンクリートを踏み締める靴の音が聞こえた。  遮るものが無いビルの屋上で、夜風がダイレクトにぶつかるせいで酷く寒かった。結束バンドで締め付けられた親指の付け根から先は、特に。 「言い残すことは?」 「あ〜……。こっからでも入れる保険ってあります?」  漫画みたいにありきたりな言葉を投げかけられた俺は、漫画みたいにありきたりに死んでいくんだと思った。軽薄な言葉が口をついて出る。  怖くは無かった。  ただただ、現実感が無かった。産まれてから一度も、本当に生きているという実感もなく生きてきた俺にとって、生も死もリアリティに欠けていた。 「……お前が何故今、こんな状況にあるのか。心当たりがあるだろう。吐けば命だけは助けてやる」 「いや無ぇよ」  俺の足元では右足のスニーカーの靴紐と、左足のスニーカーの靴紐が硬く仲良く結ばれている。一歩も歩くことはできないし、少し重心を崩しただけで地面に真っ逆さまに落ちてしまうだろう。しかし暗くて底が見えない今、地面なんてものが本当に存在するのかも俺にとってはあやふやだ。 「最期まで隠し通す気か」 「だから知らねぇって」  本心だった。先程から男が何のことを話しているのかさっぱり分からない。男の話から、何やら俺は国の重要機密を知ってしまったらしいが、それが何なのか皆目見当もつかないでいた。 「もういいだろう」  ふと、背後の男とは別の声が風の音と共に耳に届く。 「しかし、ボス」 「彼の口が硬いのはこれで君も理解しただろう。どうだい、――くん。僕たちと一緒に働く気は無いかな? ……安心したまえ。社会保険は充実しているよ」  突然現れたボスとかいう奴にフルネームで呼ばれ、突拍子もない勧誘を受ける。やはりこの世界に現実感のカケラも感じられない俺は、相変わらず何のことか分からない話の尻馬に乗ってみることにした。 「……今日、寒いッスね」  肌に当たる夜風の硬さだけが、リアルだった。 前回も参加したので今回も。902字。

7.ID: UtT9JqAE2022/10/08

「池の水全部抜いたみたいなやつあるじゃん? あれみたく、地球から水全部抜いたらどうなるかなって」 もうすぐ真夜中に近い夜。彼と並んで、人っ子ひとり歩いていない大通りをゆっくりと下っていく。古い商店が立ち並ぶ街は静かに眠りにつき、街灯と自販機が時折ぽつりぽつりと光を投げかけている。 「抜いた水はどうすんだ」 「うーん……月にでも移すか。それで、だいたい半分くらい抜いたら、……」 荒唐無稽な話はいつものこと。それに肉付けして、こいつなら本当にやりかねん、と思わせてくるのも。でも、いつも楽しみにしていたこの時間は今日で終わり。彼は明日の昼の出発式ののち、この街を発つ。宇宙の彼方を開拓する一団に加わり、1人乗りの宇宙船でAIを相棒に、遠く暗い宇宙を渡る旅へと赴くのだ。 夜風が俺と、彼の髪をさらって流れていく。黙ったままの俺のことを不審に思ったのだろう、彼が顔を覗き込んできた。 「どした?」 「いや、あの……、明日から、気をつけろよ」 「ああ、うん。電波が通じる宙域に入ったらすぐ連絡するし。心配すんなって」 明るく笑う彼に、胸が少しだけ痛くなる。 違う。俺が言いたかったのは。そんなことじゃないのに。 駅に着いて、反対方向の列車に乗る彼をホームの上から見送り、俺はひとりため息をつく。冷たい風が頬を撫で、遠くで青白く光る星を瞬かせた。あの星よりも遠い場所に、彼は行ってしまう。この先、もう会えるかもわからない。 空を見上げるしかない俺は、重力を振り切って行ってしまう彼をほんの少しだけ羨んだ。 昨日読んでた「ホワット・イフ?」面白かったからおすすめしときます(地球の水云々はここから)

8.ID: QGY5BhWv2022/10/08

 秋霖の続く10月上旬、傘を叩く雨音を聴きながら夜の繁華街を抜ける。私の手にはアツアツのチーズ牛丼とヒヤヒヤの缶ビールが入った袋が握られていた。袋の中身──つまり牛丼──が雨で濡れないよう、大事に大事に握り締めて歩く。  ──本当はカレーが食べたかった。  私の背後で《ソレ》が言った。不満の滲む声だった。  ──今晩はカレーの気分だったのに。  ──トマト鍋でもいい。チーズとご飯も入れてリゾット風にしよう。  ──ボクはハンバーグが食べたい。  ──ビーフシチューパイもいいな。冬の味がする。  ──まだ秋になったばかりなんだ。焼き魚と芋の天麩羅はどうだろう。  口々に唱えられる献立を無視して、私は黙々と今後の予定を考える。  まず家に帰ったら、お湯を張ってシャワーを浴びよう。温かいお風呂、良い匂いの石鹸、美容成分たっぷりのスキンケアに、お気に入りのボディクリームで全身を保湿したら、お待ちかねのチーズ牛丼をレンジで温めるんだ。暖房の効いた暖かい部屋で寛ぎながら、チーズの溶けたホクホクのチーズ牛丼とキンキンに冷えた生ビールを堪能する。──ああ、優勝! なんて贅沢な3連休の過ごし方だろう。  ──貧乏臭い。  ──もっと友達と遊ぶとかさ。  ──恋人にしたい男をデートに誘うとか。  ──実家に帰って家族団欒とか。  ──有意義な過ごし方があるだろうに。  冷たい夜風に乗って、呆れた声が耳に響く。私にしか聞こえない異形たちの声に「放っておいて」と返しながら、秋雨の中を歩いた。

9.ID: T97XladV2022/10/09

焼肉には白米と決まっている。だというのに、米がない。 コメ主はからっぽの米櫃に舌を打った。 現在時刻は18時15分。今晩はコメ主1人で『おうち焼肉』だ。ふるさと納税で入手した霜降り和牛が今か今かとコメ主を待っている。付け合わせのサラダも和牛に合う酒も用意した。食卓には遠赤外線式無煙ロースターも設置されている。『おうち焼肉』の準備は万端である。──米がない、ということ以外は。 焼肉には白米が必須なのだ。白米のない焼肉など焼肉ではない。 口の中でとろける牛肉に舌鼓を打ち、生ビールを飲みながら、炊き立ての白米をいただくのが食への礼儀というもの。 コメ主は覚悟を決めて立ち上がった。 コメ主はペーパードライバーである。車の運転なぞしたくはない。しかしスーパーから自宅まで米を運ぶには車が必要不可欠であった。コメ主は車の鍵を引っ掴み、気合いを入れて車庫に向かう。 ──すべては最高の『おうち焼肉』を迎えるため。 家の外は冷たい風が吹いていた。つい最近まで茹だる猛暑だったのに、今やもう長袖のアウターが欠かせない。──尤も、ここまでの描写は全て妄想に過ぎないのだけれど、コメ主は素知らぬ顔でタイピングを続けていた。なにせ引きこもりのコメ主は今宵の夜風を知らない。肌寒いのか、生温いのか、窓を開けることすら億劫の身ではとんと見当もつかないが、妄想の中でくらい高級和牛を腹一杯食べたい、その一心で文字を打ち続けている。虚無。

10.ID: oXRb6mjz2022/10/09

夜風吹き付けるアパートの外廊下、薄暗い電灯の下でオタクは鞄を漁っていた。どうやら、家の鍵を失くしたようだった。 しかし、オタクは落ち着いていた。ネットで調べれば解決策がすぐに見つかるだろう。オタクはインターネットへの信頼が厚かった。 スマートフォンを取り出すと、幸いにもまだ15%ほど充電が残っていた。 ブラウザに「鍵 なくし」まで打ち込んだとき、手の中のスマートフォンが震えた。寒さで動きにくい指がスマートフォンを落としそうになる。オタクは若干の苛立ちをもって画面上部の通知に目を遣った。 ――XXさんがライブ配信をはじめました オタクは小さく息を呑んだ。オタクの推しは配信の予告をしないタイプなのだ。そしてアーカイブも残さない。オタクはこれまでに何度も悔しい思いをしてきた。 オタクは迷うことなくSNSを立ち上げた。小さな画面の中で最愛の推しが手を振っていた。 とにかく配信を盛り上げねば、とオタクは素早くコメント打ち込んだ。 ――今外で見てるよw寒いw オタクが見るべきは推しの配信ではなく鍵のレスキューであった。だが、オタクにとっては、もはや鍵を失くしたことなど些細なことであった。 『えー、外で? 風邪ひくから早く家帰りな?』 イヤホンから聞こえた推しの声に、ひい、とオタクは声を上げた。寒さとは別の震えで画面が小刻みに揺れた。 オタクは、このとき初めてコメントを拾われたのだ。 このまま凍え死ぬことになろうとも後悔はなかった。しかし、推しの配信途中で充電が切れることだけはあってはならない。オタクは鞄を抱えなおすと、勢いよく走り出した。最寄りのコンビニまでは5分。イヤホンから届く推しの声が、まるでエールのようだった。

11.ID: GSLiHqTj2022/10/09

※大した事ないけどBL、ホラー注意 まずいと思った時には遅かった。僕は、よく知った見知らぬ場所に居た。生まれ育った町には人も車もなく音すらしない。黄色い夜空がこの場所のおかしさを一層突きつけた。途方に暮れる。 手の中にスマホ。他の誰にも頼れないこの類の現象をどうにか出来る奴がいて、どういう巡り合わせか、それは僕の同級生だった。だが友人とは言い難く、つまるところ電話するのにも酷く勇気が要る。だが他に手立てもなく、天秤は連絡を取る方に傾いて、僕は【陽キャ】で登録されたソレを押した。 『もし?どったの、ミッキー』 後ろが騒がしい。多分カラオケ。その事に、あ、だの、う、だのコミュ障を更に拗らせたが、『おっけ、わかった。迎えに行く』と、察してくれるコイツは凄い。 陽キャこと千葉が言うには、僕は怪異に遭遇しやすく、そうなった原因もあるのだが今は割愛する。 連絡がついたなら何とかなる。 ふうと一息。すると無風だった空間に突如生温い湿った風が肌を撫でる、いや、這う。 ――生臭い。 頭を侵すような磯の臭い。空間が突如、水底になり肺の中まで不快なそれに満たされた。 足首から極彩色の魚の群れが舞い上がる。釣られるようにその先を追う。視線すら思い通りにはならず見てしまった。 空を泳ぐ異形の巨魚。濁った目が僕を捉えていた。SAN値直葬。 千葉の声に僕は意識を取り戻した。 遊んでいた所を邪魔した事を謝ると千葉は笑った。 「友達の命の方が優先に決まってるじゃん」 パリピって、苦手なんだけどこいつは良い奴なんだよなぁ。 「腹減ったね。ラーメンでも行く?」 「ま、また今度で」 千葉の項にうっすらとした汗を見つけてしまい目を逸らす。 夜風は乾いていて、その冷たさが腐った空気を入れ替えてくれる気がする。暫く魚介は御免だが、それでなくても推しと食事なんて無理だ。 推し……そう、推しだ。 これから語るのは、陽キャに吊り橋効果でうっかり惚れてしまった身の程知らずの僕と千葉の高二の秋の話である。 801字

12.ID: W1IqbipL2022/10/10

※幼馴染みが亡くなってる話、ホラーかはお任せします  夕さらば屋戸開け設けて我待たむ 相見に来むと言ふ人を  高名な誰かが詠んだのかもしれないけれど、伝え聞きで終わらせた自分には他の詠み人知らずのものと同じ。  今更詠み人を調べる気もない、調べるのはきっと褒められた事じゃないと分かっている。  都会ではもう、テレビでアニメ映画が放送された時にしか見掛けないと思われる蚊帳を潜り、敷かれた布団の上に腹這いになった。 「来ると言っても夢でなんだっけ」  現代訳するとこんな感じだと、文庫本を片手に講釈を垂れていた幼馴染みは既に亡い。  視界を占領する蕎麦殻の枕を左手で雑に布団の上から追いやった。  蚊帳に隔たれた向こうの、満月の近い月明かりに照らされた立ち上る蚊取り線香の煙。ガラス戸で挟まれた古き良き田舎の木造民家の縁台風景を、ぼんやりと眺める。  自分が正月の帰省を終えた直後に亡くなったと、今回の盆休みの帰省でやっと両親から聞かされた。  しかし、何度問えども何故亡くなったかは教えてくれない。  初盆を迎えた幼馴染みの実家へ手を合わせに行くと、幼馴染みの母に玄関で出迎えられた。  憔悴した顔で教えてもらえたのは、棺に人形を入れた事実。 「寝たくない」  どうして、真っ先に幼馴染みの得意気な顔を思い出したのだろう。他にも色々記憶に残っている筈なのに何故。  口を引き結ぶ。普通なら眠るのかもしれないけれど、対抗心が芽生えてしまったからには眠れない。  目頭が熱を持ち、右手で拭おうとして直ぐに止める。  蚊取り線香の煙が不意に、自分へ向かって流れ始めた。 「えっ」

14.ID: 7wBythSL2022/10/11

雲がなく風のよく吹く夜は魔女にとって箒びよりです。相棒を乗せて星の瞬く空を飛び回るのです。 魔女の相棒と言えば、そう、黒猫です。どの猫達も夜を移したような毛をそよそよと揺らし、樫の木で出来た先端にちょんと乗っかります。 チビもまた魔女の相棒でしたが、まだ飛んだことはありません。飼い主のレムは半人前でしたから箒ではなくチビを乗せバイクに跨るのです。それはチビにとって一番の幸いでした。 ある日ママが言いました。 「そろそろレムも箒に乗る頃かしら」 レムのお供はチビの役目です。 納屋の片隅にある箒めがけて走り出します。忘れられたように置かれた箒を倒すと上に乗りました。けれど足はすぐ柄から落ちてしまいます。 これでは相棒は名乗れません。 お隣の黒猫に相談に行く事にしました。 『クロ、君の弟子にして。僕、立派な黒猫になりたいんだ』 一体どういう訳だと聞かれるまま答えました。レムの為に変わりたいのだと。 するとクロは月のような目に気遣いを浮かべて言うのです。 『無理よ。犬は猫になれないわ』 チビはがくりと項垂れ、とぼとぼと来た道を帰ります。途中、水溜りを見つけ寝そべりました。そんな事で麦色の毛が夜色に染まるはずもありません。けれども泥に何度も寝転ぶのでした。 帰ったチビを見てレムは驚きました。優しく洗ってくれましたが、チビはレムの為に何もできません。くうん、と鼻先は下がる一方。 レムは今夜、魔女として空を飛ぶのでしょう。 ところが家の前に出ると、あったのは箒ではなく、いつものバイクでした。 「私達には、これでしょ」 尻尾は心と同じように喜びに揺れました。バイクはミルキーウェイまでひとっ飛び。 前の飼い主はチビがちびでなくなった事にがっかりしていました。ちびにも猫にもなれません。それでもチビはレムの相棒で、その事がもう嬉しくて嬉しくて、夜の風に乗って、チビの涙もあの星々に負けない位に美しく空にちりばめられるのでした。

16.ID: P9YZ47KG2022/10/12

『強キャラが夜中、高いとこに立ってコートを風でバサバサいわせてるやつあるじゃん。俺、あれやりたいんだよね』 聞かされた時はまさか実行に移す気だとは思わなかった。 この幼馴染は昔からおかしなことばかり言っているが、さすがに二十代半ばとなった今は落ち着いたと思っていたのに。 深夜二時、「写真を撮ってくれ」と僕が呼び出されたのは24時間営業のコンビニの裏だった。 到着と同時に「おーい」と聞き慣れた声が上から降ってきた。 声のした方を見上げると、壁面の上部に沿ってぽつぽつと設置された電灯を直視してしまい、一瞬目がくらむ。 どうやらこのライトと屋上の組み合わせでコンビニを選んだらしい。確かにある程度足元が明るくないと撮影は難しいだろう。 ぱちぱちと瞬きをして持ち直すと、屋根の上に立つ幼馴染の姿を視認できた。 そんなところにどうやって登ったのか。その黒マントはなんなのか。 聞きたいことは色々あるが、「早く!写真!今のうち!」と急かされたのでとりあえずスマホのカメラを向けた。 「準備できたけど、風がないよ」 ささやかな夜風は吹いている。しかしあの重そうな生地をバサバサいわせるには到底不十分だ。 「大丈夫、自分で何とかするから」 「……」 何も言う気が起きなかった。腕をせっせと動かして裾をはためかせる幼馴染の姿を適当に撮り、役目を終えた。 屋根から降りる幼馴染を待つ間、撮った写真を改めて見る。 「このマント、中二の時のやつじゃん」 どうりで見覚えがあると思った。悪の組織という概念に憧れたあいつが、視聴覚室の古い暗幕をもらってきて作ったものだ。手伝わされたのでよく覚えている。 こいつ、あの頃から全く進歩していない……まあ、懲りずに付き合っている僕もそうかもしれないが。 写真はひどい出来だったので、そのまま「落ち込んだ時に見る用」フォルダへ移動させた。

17.ID: LuOBzUno2022/10/12

「夜風が吹くのは誰かに思われているとき」 ヘタクソに炊いたおからみたいにボソボソの声で、彼が言った。 「何それ。聞いたことないけど」わたしは笑うしかないじゃないか。 「祖母がね。言ってて」 「おばあちゃん、ロマンチック」  家の方向がいっしょだから、サークルの飲み会の後はだいたい彼と一緒に夜道を歩く。 安心だ。学生街は軽犯罪が多いから。とはいえ。彼の見てくれは決して頼もしくない。ろくにセットもされていない、小学生男子みたいな短髪で、黒縁メガネが妙に流行りの形だから、ぜんぜん似合っていない。  それでも、一人よりはマシ。……だなんて、言ったりしたら失礼だよね?  ごめんなさい。  わたしは彼に気付かれないように、少しだけ舌を出した。  風が、頬を撫でた。わたしはなんだか嬉しくて、目を見開いた。 「ねえ、夜風が吹いたってことは」  わたしは勢いよく振り向いた。彼を茶化すつもりだった。  真っ赤な顔して見つめる瞳は今にも泣き出しそうな、男子にあってはならないみたいな表情で。わたしはハッと息を呑んで、彼を見つめ返した。 「……駅に戻る」 どうしようもなくボソついた声に、 「は?」 わたしはあからさまに眉をひそめた。 「急に、大きい方を! もよおしてしまった!」  彼は真っ赤な顔でそう叫ぶと、一目散に走って行ってしまった。  マジ? 「……一人で、帰れか……。なんだよもう……」  わたしは、妙にがっかりとした気持ちになって、トボトボと夜道を歩き、なぜこんなにも肩を落とすのかと、首を横に振るのだった。  それから何年も後に、これを笑い話にしながら、一緒にキッチンに立って洗い物をするだなんて、このときのわたしは想像すらしていないのは、当たり前のハナシなのでした。

18.ID: TtkWQHP12022/10/30

 帰るよ――耳底から湧き上がる母の声を聞きながら、私は靴を履いて家を出た。  外灯が点在する夜道。足元の落ち葉がカサ、と鳴る。風はとても穏やかなのに、なまじ空気が冷たくて、骨の髄まで凍えてしまう。  三ブロック先の国道では、車が次々行き交っている。エンジンのいななきと共に明滅する赤い光に、燃える故郷を思い出す。  終戦から一年が過ぎた頃、母は私の手を引き、家を後にした。  当時、私は六歳だった。生まれも育ちも満州は新京の片田舎だったから、「祖国に帰る」という実感がなかなか湧かなかった。  落ち葉が転がる音に耳を傾け、道路とは反対側の藪へと入っていく。小枝でも踏んで音を立てないよう、細心の注意を払って足を進める。  敗戦を機に、私の『祖国』は崩壊した。村には暴徒と化した原住民やソ連兵が押し寄せ、破壊と略奪の限りを尽くして回った。助かるためには、数百キロ先の引き揚げ船に乗り込まねばならなかった。  満鉄に飛び乗り、私たちははるか遠くの葫蘆(ころ)島を目指した。線路は途中で壊されていたから、そこから先は歩くしかなかった。  大陸の夜風は冷たかった。落ち葉がカサ、と鳴るだけで、指がポロッと取れるかと思うほどだった。あまりの寒さに居ても立ってもいられず、私は「歩けない」とべそをかいた。  母は鬼の形相で振り返り、無言で私の頭を叩いた。ソ連の兵隊は居留民を見つけては銃で一掃していたから、余計な物音を立てるわけにはいかなかった。 「ばーちゃんったら、また勝手に出歩いて!」  背後から、険のある声が投げかけられた。振り向いた先には、きつい目をした中年女が仁王立ちしている。  博多港に着いたのち、私たち親子は遠縁の親戚宅に身を寄せた。そこは名の知れた庄屋の家系で、よそ者には厳しかった。 「ごめんなさい、おかみさん」  どうしていいか分からず、私はとっさに頭を下げた。目の前の女はおかみさんに似てなかったけど、仕草や佇まいが少し似ていた。きっと別人だろう。それでも、顔と名前が思い出せない。 「だから、私は女将じゃないって。何回同じこと言わせるの」  吐き捨てるように言い、彼女は私の腕をつかんだ。そして、ため息をつき、「帰るよ」と無愛想に続ける。先の見えない闇のなか、落ち葉の音が耳朶に触れた。  いったい、どこへ「帰る」のか。  涙を浮かべ、こぶしを振り上げる母の顔が脳裏に浮かぶ。かすかな夜風に背筋を震わせ、私は出かけた言葉を飲み下す。 --- 好きな企画なので続いてくれて嬉しいです!トピ立てありがとうございます!

19.ID: 6dUMpoSe2022/11/23

>>14

レムの一日は自分に魔法をかけることから始まります。変化してから朝食。ミルクには手を伸ばしません。ママが悲しそうなのには見ない振りをして家を出ます。 小さく見えるよう俯き歩くのが癖になりました。 好きな子に長身を理由に振られたのは去年のホリデー。宿木の下に彼と小柄な女の子が並んだ姿に顔を伏せました。視界に入る自分の大きな靴が恥ずかしくて、泣きながら帰ったあの夜の凍えるような冷たい風は、今も心に時折吹くのです。 また巡ってきた憂鬱なこの季節ですが最近では散歩道に慰めてくれるものがありました。 懐っこくて可愛い犬です。大きな体を縮こめるようにいつも丸まっています。食い込み気味の首輪のプレートにはチビとありました。飼い主の姿はありません。 「今日も待ち合わせ?」 けれど日に日に毛が汚れていくのが気に掛かかります。 一層冬の気配が近づいても毎日そこにいるチビに、いよいよ迷子かと思い飼い主を探すことに。 その家はすぐに見つかりました。 チビの事を伝えようとドアを叩きます。はーい、と出てきた子ども。それからその子の腕の中、小犬が無垢な目でレムを見上げました。 寒くて暗い夜の中でもチビは独りそこに居て、レムは目元を拭うと駆け寄りました。 「貴方はうちの子になったの。……帰ろ?」 小型犬用の首輪を外しました。締め付けられた跡に胸が苦しくなります。 「あのね、貴方は貴方のままでいいの。私はチビが大好きよ」 犬は優しい生き物ですから、レムの涙の跡を鼻先で慰めてくれました。 撫でるとふさふさの尻尾を揺らします。抱きしめるとチビもその大きくて愛らしい身を寄せてくれます。なんて可愛いのでしょう! 互いの体温が伝わると冷たい風の中でも、もう寒さは感じませんでした。 そしてママの事を考えます。 チビへの言葉は一年前にレムがママに言われたもので、今になってやっとママの気持ちがわかったのです。 体を小さくする魔法はもう使いません。本来のレムには今の可愛い靴もきつくて履けなくなるでしょう。でも、いいのです。 ママに謝ったら自分達によく似合う靴と首輪を買いに行こう――そうレムは、チビがいる新しい明日からを想い、背筋を伸ばしてお家へと歩き出しました。

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