よく言うだろう。自己肯定感の低い人間は自分を石ころのように思う。...
よく言うだろう。自己肯定感の低い人間は自分を石ころのように思う。道の途中で転がっていても誰も目に留めず、石ころゆえに拾われる価値もなく、ただそこでじっと黙り、放って置かれている。全くその通りだ。
だから石ころの俺が、視界の先、歩道脇でうずくまる男を見てああ、こいつも俺と同じ石ころなのかと悟ったところで、誰が気にしてくれるんだと思っただけなんだ。
男は俯き、体を小さく折りたたんでいるため表情は見えない。似通ったスーツ姿のコピー人間みたいな集団が革靴やパンプスの足音を目覚ましみたくうるさく響かせ、男の横を通り過ぎていく。それでも男に動く気配はない。朝の通勤ラッシュは無情だ、他人の健康の心配より出勤時間を守る方がこの国じゃ正義とされる。上司の声が頭で響く、「遅刻は遅刻、遅れた理由がなんであろうと言い訳でしかない!」ええそうですね、俺だってほんとは立ち止まる気なんてなかったんです、でも誰からも頼りにされない石ころが、似たような存在を見つけて同情で憐れんでみたって、そんな惨めな言い訳があるんでしょうか。
「大丈夫ですか?」
男の傍まで歩き寄り、とりあえず、声を出してみる。かすれて情けない声だった。しゃがみこんで耳元で話しかける勇気もなかった。だからこのどうしようもない、偽善の挨拶にも男が無反応でいてくれれば、俺だってそのまま会社に出勤して、怒鳴る上司、同僚の冷たい視線、先輩に押し付けられた仕事を片付けて…いつもの石ころに戻るはずだったんだ。
男が俯いていた顔を上げた。顔を見て少し後悔する。なんだよ…思ったより血色がいい。病人でもないなら酔いつぶれたのか?この時間に?その割に酒臭くもない、じゃあなぜ…男の伏せられたまぶたが開いて、急に明るくなった視界に顔をしかめた後、眩しさに耐えながら目の前にいる俺をしっかりと見た時…さらに後悔した。そいつ…俺と目線を合わせてにっこりと笑い、こう言ったんだ。「よかった。あなたみたいな人を待ってたんですよ、僕」
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