結論から言うと刑法には触れません。
しかし、民法を理由に訴えてくる人はいるかもしれない行為です。

分かりやすくするために、まず写真の話からしていきます。
長いと感じた人は最後のまとめだけ読んでみてください。
　
　
■無断撮影（盗撮）について
最初にこれを示すのはトピズレと思われるかもしれないので簡単に。
無断で人物などを撮影する行為のことを俗に「盗撮」と言いますが、実は刑法上や条例上禁止されている盗撮にはちゃんと規定があります。

まず意外かもしれないですが、刑法に「盗撮」や「無断撮影」に関する規定はなかったりします。
盗撮が処罰されるのは主に条例であり、各都道府県によって規定が微妙に異なりますが、
概ね「通常衣服で隠れている下着や身体」を撮影した場合です。

なので、スカートの中や着替え中の状態を撮影する行為は「盗撮」として
迷惑防止条例違反で逮捕・起訴して刑事上の責任を問うことができますが
ただ歩いている後ろ姿を勝手に撮影するだけでは「盗撮」とは法的には見做されません。

このあたりが曖昧で、無断撮影＝盗撮は犯罪と勘違いしている人が非常に多いです。
撮った撮られたのトラブルは、この認識違いから起こっているように感じます。
　
　
■肖像権について
肖像権は刑法ではなく民法になります。
なので被写体側が主体的に訴えたりしない限りは、その責任を問われることはありません。

その際には、受忍限度と呼ばれる「社会通念上、一般人が我慢すべきとされる被害の程度」を超えた場合に認められます。
これを設定しておかないと、街中の監視カメラ・防犯カメラに対しても片っ端から肖像権の侵害で訴えることができてしまいます。
何か明確な実害・精神的苦痛などを被った場合に、その訴えが認められます。
主には、自宅内や病室などのプライベートな空間での撮影、顔がはっきり写っている写真をSNSに公開された、無許可での撮影・公開などです。

そのため公道や駅などの多くの人が出入りする場所での撮影は、原則的には肖像権の侵害にはなりません。
前述のように、駅や電車内の防犯カメラなどにも既に当人が映り込んでいるのもあります。
スナップ写真などの文化があるのは、このためです。

また撮影した写真なども、SNSなどの公の場に公開しない場合は問題なしとされることも多いです。
肖像権自体は「撮影するだけ」でも訴えることはできますが、公開されないのなら良いと考える人もいるからです。
仲間内で撮った写真を「撮るのはいいし、仲間内になら送り合っていいけど、SNSにはアップしないでね」「もしアップするならモザイクかけて」という人もいるからです。

ただ、撮影の許可する・しないについては、先の「盗撮」の問題と相まってトラブルに発展しやすい争点かと思います。
　
　
■迷惑やトラブルについて
昨今では、携帯電話などにもカメラが付いて一億総カメラ時代となり、
また撮った写真というのは何かに公開することが前提であったり、
公共の場での撮影でも「盗撮だ」「肖像権が」というトラブルが非常に多くなっています。
それもあって、スナップ写真という文化もやや廃れつつあるのが実情です。

上記のような刑法や条例で問えないような行為に対して「盗撮だ！」と騒いだり
訴えるつもりもないのに「肖像権の侵害で訴えてやる」と反発する被写体の人が出てくるのは
正直容易に想像できるかと思います。

他の乗客に配慮した撮影であれば問題ないでしょうが、そうでない場合には駅員や乗務員から控えるよう言われることにもなります。
電車内の撮影そのものは問題ないですが、それを「迷惑」だと感じさせた場合にはトラブルにも発展します。
そういった「トラブル」または他人が迷惑だと感じる行為そのものを控えて欲しいというのが鉄道会社側の考え方です。
そのため、事前にトラブル防止のために「他のお客さまや係員の無断撮影・録音を禁止」という規定を設けている会社もあるかと思います。
ただマナーや節度を守って、という会社も当然あります。
そのあたりは鉄道会社やバス会社によって異なってくると思われますので、確認する必要があります。
　電車内や駅構内で列車等の撮影をしたいです。
　　https://jreastfaq.jreast.co.jp/faq/show/2985?back=front%2Fcategory%3Ashow&category_id=39&page=1&site_domain=default&sort=sort_access&sort_order=desc
　Q,車内で携帯電話・スマートフォンを使ってもよいでしょうか？
　　https://www.ryobi-holdings.jp/bus/airport/question/

ただ、さっと１枚撮るだけであったり、大きなカメラをぶら下げた観光客が撮っているのであればスルーされることも多いです。
しかし、スマホを向けてずっと撮っていたり、バシャバシャと撮影音やフラッシュまで焚いて撮っていては、流石に迷惑じゃないかと注意する客や係員も出てくるでしょう。

正直このあたりはある種の程度問題であり、また撮影されていることを悟らせない無断撮影の方がトラブル回避には向いているとさえ言えます。
しかし、それがかえってバレたときに問題に発展しやすいのも事実です。

特に、電車内・バス車内は公共の場であると同時に、閉鎖的空間でもあります。
スナップ写真などは主に公道上での撮影（ストリートスナップ）が主です。
Youtubeにアップされているスナップ動画も、基本は公道です。
車内などで撮影する場合には、事前か事後に承諾を得るようなマナーは最低限でも必要かな、と感じます。
　Wait for the reaction!! 💛#streetphotography #streetphoto #subwayphotography #subwayart
　　https://youtu.be/pdEKtWJxSHY?si=_zUjZwrmww2Y7VQO
　Take picture of the train driver #streetphotography
　　https://youtu.be/g-BX4F3scMI?si=i3T3KWZdj3DZLYOP　
　【ストリートスナップ】#ストリートスナップ #写真 #写真を撮ってもいいですか
　　https://youtu.be/pCZ9xq-uj3c?si=bzusPC4iDkzjpLiY

■クロッキーの場合
これらの問題はスケッチやクロッキーでも同様で、無断で人物の絵を描くだけでは刑法上の犯罪にはなりません。

民法上の肖像権に関しては写真だけでなく、服装や顔で個人が判別できるくらいに精密な場合はスケッチやクロッキーの場合でも適用されます。
あまりにも精巧で写真のような絵に関しては、肖像権を理由に訴えられる可能性はゼロではないです。
　Drawing strangers realistically in NYC and giving it to them!! (INSANE REACTIONS!)
　　https://youtu.be/oIRQJF00IAw?si=bHyQCVJ5ul7jjpaC
　このレベルになってくると、個人を特定できる描写かと思います
　
ただクロッキーやスケッチというのは、デッサンのように時間を要して精密に描くようなものではなく、
短時間で簡潔な写生することです。
個人を特定できるほどの顔を描くものではないため、基本的には肖像権の侵害にも該当しないことが多いです。
　電車クロッキー立ち読み
　　https://youtu.be/8fAvRePILC8?si=gsC4mEdky1D-6ivS
　　（クロッキー作者さんが自身で出された同人誌を自身のチャンネルでアップロードしている動画です）
　
ただ前述のように「描かれた」というのが迷惑だと感じてトラブルに発展するケースはゼロではないと言えます。
それは盗撮や肖像権について勘違いしている人が多かったり、日本人がプライバシーを非常に重視しているなどがあります。
　
私も公共機関でクロッキーなどをしたことがありますが、経験で言えばトラブルに発展したことは一度もありません。
ただそれでも電車内でクロッキーを行うというのは、ある種の閉鎖空間でもあるため、非常に精神的な抵抗感は描く側としても強かったです。
そのため、駅ホームのベンチに座って、電車を待つ人を描くことはよくやりました。
　生き生きしてるイラストはどうやったら描けるんでしょうか…？
　　https://cremu.jp/topics/37699
　立ち絵の上手い描き方について。
　　https://cremu.jp/topics/9341
そのあたりの理由はこれらのトピにも書いているので、良ければ読んでみてください。
　
　
■まとめ
・ただの無断撮影やクロッキーは刑法・迷惑防止条例違反には原則ならない
・肖像権は受忍限度を超えた場合に民法で訴えることができる
・クロッキーで個人が判別できる顔や服装まで描かなければ肖像権の侵害にはならない
・盗撮や肖像権について曖昧でも、迷惑だと感じた人から注意されたりトラブルに発展するケースはある

トピ主さんが「クロッキーって迷惑行為や犯罪なんじゃ？」と疑問に思われたように
無断撮影やクロッキーのことを迷惑行為や犯罪だと思って注意してきたり、反発してくる人というのは一定数いると思います。
そのため、そういったトラブルを起こさないためには「そもそもしない」というのも方法の１つです。

しかし、スナップ写真やクロッキーが芸術や修練の手法として確立されているのには、それなりの理由というのもあります。
極力、他人の迷惑や嫌悪感を抱かせないように行う工夫をすれば、トラブルには発展しないと思います。
・描いた絵をSNSにアップしない
・閉鎖空間である電車内やバス車内では極力控える
・開放空間である駅舎や駅前などで行う
・まじまじと相手を見続けたり、逆にコソコソと隠れるようにして描かない
・その場で描くのではなく記憶スケッチのように、あとから描き起こしてみる
こういった点を注意しておけば問題はないかな、と思います。